抗生物質!いつ使う?

スウェーデンで歯科を勉強して驚くことはいくつもありますが、
中でも私が驚いたのは抗生物質(抗菌薬)の使用方法です。

私が日本で働いていた時は、
・歯や歯茎が感染が原因で腫れたとき
・抜歯の後

に抗菌薬を処方していました。

私はエンド(歯の神経の治療の科)で働いていたので、
・急化per(歯の根っこの先の病気で急性化したもの)
・フレアアップ(初めて根っこの先を触った後の2~3日後に起こる急性症状)の恐れがある場合(症状が出なかったら服用しないことを十分に説明)
などは患者さんにきちんと服用の説明をして処方していました。

薬は第三世代セフェム系抗菌薬のフロモックス、またはジェネリックのセフカペンピボキシル塩酸塩錠を5-7日分処方していました。

セフェム系は細菌の細胞壁を攻撃して細菌を殺すタイプの抗菌薬です。

もちろん医療者として「薬剤耐性菌」に気を付けなければならないのは分かっていましたが、
そのための対応としては、不必要に抗菌薬を処方しない。
患者さんに正しい服用指導を行う。(きちんと最後まで服用しきらないで、症状が治まると服用を自分の判断でやめる方もいたので)
くらいしか考えていませんでした。

でもいまだに抗菌薬をすぐに処方する先生たちや、処方してもらいたがる患者さんが多数いるのが現状ではないでしょうか。
(風邪の患者さんに処方する人もいますよね!!)

さて、スウェーデンでは歯科の分野においていつ抗菌薬を処方するかというと
・歯や歯茎、顎の細菌感染で症状が出ているとき
・抗菌薬術前投与 Antibiotika profylax
の2つの場面が考えられます。

抗菌薬の処方に関しては、厚生労働省Sosにガイドライン、さらにはストックホルム県の特別な指針もあります。(術前投与のガイドラインは2012年に更新されました。)
ストックホルムの指針を作っているのはStrama Stockholmというネットワークです。StramaはSamverkan mot antibiotikaresistans (みんなで薬剤耐性菌とたたかう!)の意味で、将来も抗菌薬が効き目のある薬物として使い続けられるように正しい抗生剤の処方を推進しています。
Strama SLLはアプリケーションがあり、抗菌薬の使用に関していつでも調べられます。

まず、術前投与ですが
これは菌血症または顎骨壊死のリスクのある患者さんにリスク処置を行う場合に処方するものです。

菌血症のリスク患者さんは簡単に説明すると
・免疫機能がきちんと働いていない人
→好中球が少ない人。好中球の欠陥。強い免疫抑制剤を使用している人。
要は免疫不全の人!
顎骨壊死は
・顎骨の放射線治療を受けた人
・癌でビスフォスフォネート製剤を静脈内注射で使用した人

に①抜歯 ②口腔内全体のスケーリング(歯石除去) ③歯槽骨の外科処置

を行う場合は決まった量の抗菌薬を処置前に飲んでもらいます。
薬も処方量も決まっており、

経口
処置の60分前に
・Amoxicillin (ペニシリン)
大人・・・2g
子供・・・50mg/子供の体重(Kg)
ペニシリンアレルギーの場合
・クリンダマイシン
大人・・・600mg
子供・・・15mg/体重(kg)
を服用してもらいます。
(経口不可能な場合は、静脈内。ここでは省きます)

又は3か月以内に人工間接の手術を受けた患者さんで、肥満、喫煙、糖尿病などのリスクがある人なども術前投与の対象になります。

さらに、矯正外科・骨折のオペ・インプラント・骨移植などの侵襲性がより高いリスク処置には健康な人にも抗菌薬が出される場合があります。

日本の国家試験では、(私が勉強したのは5年前とかですが)
人工弁の患者さん
心内膜炎の既往
先天性心疾患
に観血処置を行う場合に↑と同じ量を処方するという感じでした。

ネットでざっと調べてみましたが統一されたガイドラインなどは見つかりませんでした。(見つけた方がいれば教えてください!)

スウェーデンでは2012年にガイドラインが更新されるまでは日本と同じ感じだったのですが、現在は人工弁・心内膜炎の既往・先天性心疾患の方に術前投与は必要なく、口腔衛生状態を改善する・良好に保つことが敗血症の一番効果的な予防につながるとのことです。

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さて、術前予防に関してはそれほど差がないような感じがありますが私が驚いたのは急性炎症時の抗菌薬の処方が著しく少ないということです。
何が何でも抗菌薬を処方しないぞ!という心意気さえ伝わってきます。

例えば、親知らずの周りの歯茎が腫れたら日本では洗浄して、抗菌薬を出していました。根っこの治療中の歯の先の歯茎がパンパンに腫れて局所的に熱を持っていて赤くはれている!こんな時は必要に応じて切開排膿、または波動を触れないようだったら抗菌薬を処方していました。
ちょっと腫れてるかも?なんて場合にも処方することがありました。

しかし、スウェーデンでは
Allmänpåverkan”全身症状”がなければ抗菌薬は出しません。
全身症状は、熱・腫れて息がしづらい・口があかない・飲み込みにくい・食欲がない.・全身倦怠感・・・
そんな全身に及ぶ症状が出たときのみ処方することが進められています。
(複雑骨折や抜歯後の大きい上顎洞の穿孔には処方するようですが)

(*私ならきっとそんな症状が出たら歯医者じゃなくて医者にいきます・・・)

では歯の炎症で局所的に歯茎がパンパンに腫れてきた人はどうするのでしょう?
私が見たケースでは切開・排膿(必要に応じてドレナージ)か、生食で洗浄をして痛み止めを出してもらい、クロルヘキシジンでうがいしてもらうよう指示して終わりでした。
抗菌薬は出していませんでした!

出す薬は第一選択がペニシリンV(コベペニン)です。
アレルギーの人にはクリンダマイシン。
コベペニンが効かなければ、メトロニダゾール(フラジール)を追加で処方します。

スウェーデンでは薬剤耐性菌の記事がたくさん見つかります。
ニュースや一般人向けの優しい説明もあります。

最近はヨーロッパで薬剤耐性菌が増加しており、
さらには去年ヨーテボリ大学の研究者が、薬剤耐性菌が空気感染するかもしれないという発見をしたようです。
移民・難民が多いスウェーデンはいくら国内で気を付けていても保菌者が外国からやってくるかもしれません。いまだに抗菌薬が処方箋なしで買える国もあり、乱用している人たちもいるようです・・・。

2017年2月に、ウプサラ大学が幼稚園の子供300人のおむつを集め調査(検便)したところ、2010年の3%に比べて2016年で20%の子供、つまり5人に1人の子供が腸に薬剤耐性菌を持っているということになります。そう考えると結構多い・・・

新しい抗菌薬の研究はあまり進んでいないということなので、今の抗菌薬が効かない菌が出てきてしまうと、抗菌薬がなかった時代に逆戻りしてしまいます。
簡単な感染でも死に至る事態になってしまうかもしれません。

日本でも抗菌薬の服用方法の見直しが広まってきているとは思いますが、
”薬物耐性菌”と調べても一般人用のわかりやすいサイトはあまり見つかりませんでした。

今ある抗菌薬の効果を保つためにも、医療者・患者さん両方が正しい知識を身に着けてが気を付けていかなければいけない問題だと思いました。

気になったのが、どうしてスウェーデンの第一選択抗菌薬がペニシリンなのに
日本の歯科医院はあまり使わないのか。
(だいたいセフェム系抗菌薬が第一選択な気がします)
スウェーデンの厚生労働省Sosの論文では、セフェム系の抗菌薬の使用が減って、それは望ましいことだと書かれていました。
セフェム系抗菌薬は抗菌スペクトルが広く、耐性菌ができる可能性が増えるため抗菌スペクトルが狭いペニシリンVが使われているようです。

確かにStrama Stockholmの指針を見てみると、まずペニシリン(主にグラム陽性菌に効く)を使用して、それが効かなければメトロニダゾール(グラム陰性菌に効く)
を処方するように記載されています。

逆に、日本でなぜペニシリンが使われていないかというと、ペニシリンショックがあるから、や耐性菌ができるからという記述を見つけましたがそれは昔のペニシリンのことで(ショックはあると思いますが)使用されているペニシリンVはスペクトルが狭いので耐性菌のリスクが減らせるのではないでしょうか。

日本語で調べてみると、フロモックスやメイアクトなどの第三世代のセフェム系は低濃度でも広域にカバーするため耐性菌のリスクになるということや、吸収率が低いということが欠点に挙げられていました。

可能な限り調べてみましたが、間違っているところなどがあれば指摘をお願いします・・・
以下のページ、参考になると思います。

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016-歯性感染症-
歯痛ブック 抗菌薬を歯科医院で使うなら知っておきたい5つのルール

スウェーデンと日本の違い調べることによって、今まで何気なくやっていた処置や使用していた薬の使用方法を疑問に思える機会ができてよかったです。恥ずかしながら私も日本であまり考えずに抗菌薬はフロモックスを投与していました。これからもっと薬剤耐性菌のことを考慮し、抗菌薬の使用法を見直さなければいけないと思いました。

Author: Y

2012年に都内歯科大を卒業。 その後しばらく働き、 2016年2月にストックホルムに移住。 スウェーデンの歯科に興味を持ったのは大学3年生のカリオロジーの授業のとき。 スウェーデンの歯科の実態が知りたい!

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