私の葛藤

働き始めてあっという間に3か月がたちました。
毎日楽しく働いていますが、ここで働いていると感じる葛藤があります。

システムや職場には大満足ですが、どうしても慣れないことが。

それは、歯科治療の値段が高い、ということです。
日本のように保険治療・自費治療が選べないためお金がない人たちへ応急的な処置すらできないことがあります。

今日出会ったケースを少しフィクションにしてお話しします。

Iさん、56歳。ある自己免疫疾患にかかり仕事ができない。歯科恐怖症。
疾患のため、唾液がでにくくカリエスリスクも高い。
歯科治療のお金はないが、Socialtjänstenという社会福祉サービスの組織に治療計画と治療費を前もって申請すれば治療のお金を出してもらえる。但し、治療計画を立てるために健診が必要で、本日健診のために受診。
カリエスが数本。2歯、大きな窩洞があいている。生活歯で症状もないので今治療すればエンドをしなくてよさそう(患者さんはエンド治療が様々な理由でできないので、抜歯になる)
ただし、スウェーデンでは仮封にも5000円ほどお金がかかる。
それを伝えると、患者さんは『そんなにお金がありません・・・』と。

払えないならしょうがない、と仮封をしないで予約を取り直す(数か月先)か
無料で仮封をするか・・・(仮封といっても、カリエスをある程度とってグラスアイオノマーでの充填です。)

日本に住んでいた時なら、『そんな仮封くらいすぐできるしなにをつべこべ考えてるの』と思ったかもしれないですが、ここで働いていると、自分が行った処置はきちんとすべて入力してお金をもらうように口を酸っぱくして言われます。
医療はサービスではなく、私たちの知識と技術にお金がかかるのは当たり前。自分の歯科医師としてのプライドを捨てずにお金をもらいなさい、と。
たかだか410Krですが、されど410Kr、私はこの行為をタダで提供していいものなのか悩みました。
私は、今回だけは・・・といって仮封をしました。この2本が抜歯になってしまったら患者さんは噛めるところが少なくなってしまうし、抜歯がリスクになる状態だったからです。でも、ここでは『お金がないならできない』というのもおそらく不正解になりません。助手さんはスウェーデン育ちの人で『お金が払えないのにやるの?』という感じでした。もしこの助手さんが上司に告げ口をしたら注意されるかもしれません。

歯のため・患者さんのためになることをやっているはずなのになぜか少し罪悪感を感じてしまう自分に悲しくなりました。

高額な歯科治療。
その為歯科治療は最低限の治療しか選べないことも多いです。
スウェーデンの医療サイト1177からの引用ですが

“Det finns även situationer då tandläkaren bedömer att det är rimligt att dra ut en tand, även om den skulle kunna repareras.
Det är tandläkaren som bedömer vilken behandling som passar bäst för varje person, men också vilken billigare behandling som skulle kunna fungera om du för tillfället inte har råd med den dyrare behandlingen.”

“修復できる歯でも、抜歯するのが適切だと歯科医師が判断する場合があります (費用的な意味で)。
歯科医師はどの治療が患者さんに最善かを判断しますが、歯科治療を受けるお金がない人により安い治療を考えるのも歯科医師の仕事です”

ということで、本当はクラウンを選択したい歯に対して、CRもりもり治療をしなければならないケース、エンドしたくてもお金がないから抜歯になるケースがたくさんあります。

日本の歯科医療費は悲しくなるほど安いですが、とりあえずやってみよう!残してみよう!という選択がしやすいのに対して、ここでは『高いからできません』と治療を泣く泣くあきらめなければいけないことがよくあります・・・。

もう一つの問題。

今働いている公共の歯科では、フリスクタンドヴォードという歯科保険があります。この保険の契約が会社の売り上げになっているのですが、実はこの保険が売られ始めた時は競争のようになっていて、とにかく保険を売れ!!という雰囲気だったようです。
週で1番保険を売った人はランチ券や花束、映画のチケットやプレゼントをもらったりしたそうです。
保険は3年ごとの更新で、今2015年ごろに保険を契約した人の更新が毎日のようにあります。フリスクタンドヴォードでは、グループが1から10ありリスクの多さによってグループが高くなります。
リスク判定は一般リスク(1から3)、カリエスリスク(1から3)、ペリオリスク(1から3)、テクニックリスク(1から3)の4つに分かれており、例えば歯間の清掃があまりできていない、少しペリオがある方は一般リスク1、ペリオリスク1になります。ここでやっかいなのがテクニックリスクで、例えばアマルガム充填が何歯もあるとリスクが急に3になってしまいます。
更新時には新しいリスク判定をしなければいけないのですが、2015年にされたリスク判定がもう本当にはちゃめちゃで、アマルガムだらけの患者さんにも保険をとにかく売りたかったからかリスクを0などにしてありとにかく不正にグループが低い患者さんがかなり多いです。
きちんと判定すると、更新時にグループがいきなり2から6になり値段が倍になったりしてしまい、更新しない患者さんやなかには怒り出す方もいます。

その時は、きちんと目の前でリスク判定の方法を見てもらいますが、前の先生たちが保険の契約を結ぶためにズルしてグループを低くしたことへの言い訳をするのがとても困ります。
更新しない患者さんが増えると上から注意される可能性がありますし、かといって嘘をつくわけにもいかないのでかなり困っています。それでもきちんとした判定をしていますが・・・

間違って低くグループ分けをされたアマルガムだらけ、CRだらけの人が3年の間に何度も何度も破折やエンド、クラウン、抜歯、さらにはナイトガードまでつくるケースが最近かなりあり、私たちはかなりの安い値段で働くことになります。
フリスクタンドヴォードの治療費は普通の治療のように計算されないようなので、いくらエンドをやってもクラウンをやっても私の稼ぎは見えてきません。
上司は残念ながら実際の治療よりいくら稼いでいるかだけを見る人なので、そうなると昇給も難しくなってしまいます。

ご褒美をもらうためにフリスクタンドヴォードを契約しまくった先生方はみんなもういないので結局残っている私たちがしりぬぐいをする羽目になります。

お金を稼ぐために、ご褒美をもらうために少しズルをする人はどの国もいると思いますが、嫌な思いをするのは患者さんと、その後に診る人たちだということを忘れないでほしいです。まぁ、自分が良ければそれでいいという人もかなり多いのでそうはいかないのでしょうが・・・

唯一フリスクタンドヴォードのいいところは、患者さんがエンドもクラウンも快諾してくれるので、とりあえずの治療ができることです。

でも、それ以外はあまりいい思いをしたことがありません。

愚痴っぽくなってしまいましたが、この『お金だけかせげればいいや』『自分だけ良ければいいや』という考えに飲み込まれない様に気を引き締めて自分らしく原らいていきたいと思います。

最後に、仲の良い同僚の名言で終わりたいと思います!
『Jag vill vara en vårdgivare inte vårdsäljare!!』
『私は医療販売者じゃなくて、医療提供者になりたい!!』